東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)104号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告らが本件審決の取消事由として主張するところは、本願考案が調質槽下部にある籾に対し直接上昇滲透する熱気を附与する構成により、籾に余熱作用を与え籾の胴割れを防止する効果を有するに対し、第二引用例はこのような構成および効果を欠いているにかかわらず、本件審決がこの点を看過し、本願考案の右の構成および効果は、第二引用例に示されているとしたのは誤りであるというにあるが、当裁判所は、次に説示するとおり、この点についての本件審決の判断は正当であり、右原告らの主張は理由がないものと判断する。
1 本願考案は、その考案の要旨(別紙一の図面参照)に示されるとおり、(一)乾燥作用を受けた籾が自身で調質作用(乾燥により表面部の水分を失つた籾が放置されている間に周囲の温湿度に応じた平衡水分になろうとして中央部から表面部に水分の移動を起こす作用をいう。)を行ないうるように、通風乾燥部2の上部に調質槽3を立体的に結合し、乾燥部2の籾流路14の狭隘な上端を調質槽3に連通させ、籾流路14から乾燥作用を受けて滞熱状態となりながら流出して調質槽3に循環返送された籾を調質槽3内で熱風を何ら浴びることなく停滞させ、この停滞中に自己調質作用を行なわせる構造としたから、籾に乾燥作用と自己調質作用とが順次反復して与えられ、過乾燥や内部水分の拡散移動の不均一による胴割れ現象を生ぜしめずに速やかな乾燥が可能となり、さらに、(二)調質作用を営みながら、乾燥部2へ自然流下する籾に乾燥部2から上昇する熱気を滲透させて乾燥することなく籾温を上昇せしめる余熱作用を与える構造とすることにより、調質槽3内の滞熱状態の籾が自然冷却して内部から表面部に向かう水分拡散移動が減退化するのを積極的に防止し、調質作用を終えた籾が籾流路14に達するまでに前記の水分拡散移動作用を活発ならしめる状態で熱風を浴びせて表面水分の除去は勿論、内部水分を速やかに除去せしめ、胴割れ現象を一層皆無ならしめ、また、(三)通風乾燥部2の上部に調質槽3を一体的に連絡した構造により、乾燥時間を短縮せしめる等の効果を奏せしめたものであることを認めることができる。
原告らは、本願考案は熱風噴気枠5および熱風排気枠7より熱風を強制噴出させ、余熱層にある籾に熱風の熱気を直接上昇滲透させて余熱作用を与えるものであり、熱風を乾燥部の籾流路より上昇滲透させるものではない旨主張するが前掲甲第二号証によると、その「実用新案登録請求の範囲」欄には、「乾燥部より直接上昇滲透する熱気を浴びて」との記載があり、その「考案の詳細な説明」欄には、実施例の説明として、「一部の熱気は熱風噴気枠5および熱風排気枠7の上部より充填籾中に滲透して流下する籾に余熱作用を与える」との記載があり、図面第5図には熱風噴気枠5および熱風排気枠7の上部に細孔6および8が設けられている構造のものが示されていることがそれぞれ認められるけれども、前掲「実用新案登録請求の範囲」欄の記載によると、熱気は、「乾燥部」より直接上昇滲透するものであり、右にいう乾燥部は熱風噴気枠、熱風排気枠および籾流路の三要素から構成されていること、および「考案の詳細な説明」欄にも上記実施例の説明部分を除いては、熱気は乾燥部より上昇滲透する旨の記載があるにすぎないこと、ならびに上記例が単なる一実施例にすぎない点を総合すると、本願考案における熱気の「直接上昇」の文言の意味を原告ら主張のように、籾流路よりの熱気の上昇滲透を含まない趣旨に限定的に解さなければならないとすべき根拠はないといわざるをえず、原告らの右の主張は採用するに由ない。
2 一方、第二引用例(大正一四年四月二一日出願公告にかかる「籾乾燥機」に関する特許明細書)は、「上槽(1)および下槽(2)を若干の支柱(3)によりある間隔を置いて直立の位置に互いに固定し、下槽(2)の底を円錐形漏斗(5)となし、その末端に落下口(6)を設け、落下口(6)に送風管(10)を貫入し、下槽(2)内の中心に熱風槽(7)を設け、熱風槽(7)の周壁を漏斗形鎧戸(8)または金網(9)で形成し、熱風槽(7)に送入した熱風をその四周に放射して上下両槽の間においてその外周に出るようにした構造」(別紙二の図面参照)のものであるところ、右の構造により、(一)下槽(2)内を流通する熱風によりその槽内の籾を乾燥空気中に保つて水分の蒸発を速やかにするとともに、(二)上槽(1)内は無風または少しく熱風を下槽(2)より流通せしめて、その槽内の籾を飽和またはこれに近い状態の空気中に保つようにした結果、下槽(2)内で加熱された籾は上槽(1)内に入るとき、その空気が飽和しているため、水分の蒸発をやめて滞熱状態を維持し、各籾の有する多少不同の温度を互いに均一化すると同時に、その籾の内部物質の内外の温度の不同を均一にする作用を生じ、したがつて、下槽(2)における加熱と上槽(1)における温度の均一化とを交互に反覆することにより下槽(2)内で行なわれる籾の乾燥は籾の表層だけでなく、その内部においても同時に促進せられ、乾燥に伴なう籾内物質の硬化を内外均等に生ぜしめ、籾の乾燥により生じ易い胴割れを防止し、乾燥能率を増進する効果を奏するものであることが認められ、叙上認定の事実によると、第二引用例は、上槽において下槽内で乾燥加熱された籾の調質作用を行なうとともに、下槽より上槽内に熱風の一部を流通せしめ上槽内の籾に余熱作用を与え、胴割れ防止の効果を生ぜしめる構造のものであることは明らかであり、これを本願考案と対比すると、第二引用例には、前認定の本願考案における籾の調質作用および乾燥部より直接上昇滲透する熱気による籾の余熱作用に関する技術思想が開示されているものとみるを相当とする。
原告らは、第二引用例は、熱風を籾流路より迂回上昇して上槽内の余熱層に達せしめる点で本願考案と異なり、また、第二引用例においては、ラビリンスパッキングの原理により、熱風の上昇は原則として阻止される旨主張するが、前段の主張は、本願考案の熱気の上昇滲透が籾流路よりのそれを含むこと前説示のとおりである以上、理由のないものというべく、また、後段の主張は、第二引用例において熱風が多少上昇滲透することは原告らも認めるところであるし、ラビリンスパッキングの原理をいうならば、本願考案においても同様にこのこの原理が作用するものといいうるところであるから、この点をもつて両者に差異があるものとすることはできない。したがつて、原告らの上記主張は、いずれも採用の限りでない。
3 したがつて、本件審決が、第二引用例に本願考案における余熱作用に関する事項が示されているとした点には、何らの誤りはないものというべきであり、結局、本願考案が第一引用例および第二引用例からきわめて容易に考案しうる程度のものであるとした本件審決の判断は正当であり、原告ら主張のような違法の点はない。
(むすび)
三 以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告らの本訴請求は、理由がないというほかない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)